鋳物の溶接のブログを書き始めてから問い合わせや依頼が多くなりました。
当社はSS材の溶接がメインですので本来鋳物の溶接はやっておりません。
それでも、色々な材質の溶接に対応するために溶接材は其れなりに用意していて、その中にニッケルを多く含んだTig溶接の棒を持っていましたので、過去にもそれで鋳鉄(鉄の鋳物)の部品を溶接修理はしていました。
そのTig材料は高価(5Kgで15万円)で、しかも当社では滅多に使わない為、未だに半分くらいが残ったままでした。
折角の材料も使わなかったら勿体ないので、何か役に立つように使えないかという思いで鋳物の部品の修理をやり始めたのです。
やってみてわかったのは、「鋳鉄なら何でも溶接できる・・・・とは限らない」ということです。
過去のブログにも書きましたが、同じ鋳鉄にみえても溶接出来ないものもあるのです。
どのように出来ないかというと、溶接すると「割れてしまう」ものが有るのです。
溶接した近傍にクラックが入るのです。
予熱しても徐冷してもそうなるものは割れてしまいます。
ですので溶接を引き受けるのは緊張します。
何処に使うかわからない工業製品や繰り返し荷重が掛かるものは恐ろしくて引き受けられません。
「見かけ上元に戻す」を基本にしています。
それでも、ずっと大切にしていたものが壊れてしまって途方に暮れている方がいましたら、ご連絡いただければ対応いたします。



こちらは、とても大切にされていた南部鉄瓶の蓋です。
思い出深い品物で、しかも毎日使っていらっしゃるという「物」にとってこんなに嬉しいことは無い感じの鉄瓶。
思わぬアクシデントで折れてしまったつまみの修理のご依頼でした。
修理で緊張するのは溶接出来るかどうかの他に、元の形に近い状態で溶接出来るのかということです。
この蓋のつまみの場合は小さい上に模様が入っているのでどうしたものかと悩みました。
ただ「くっつける」だけなら何とかなりますが、日常使われていますので、やはり強度がそれなりにないと心配です。
単純骨折的に折れているので合わせ面がピッタリですが、やはり開先は必要です。
でも開先を取ると合わせ面がわからなくなるので印をつけておいて間違わないようにします。


アーク出しの一発目が緊張します。
今回は一回外してやり直しました。
この時点で開先は取ってあります。
部品が小さくて「溶け落ち」も怖いのでこんな感じにしています。

溶接完了
この後仕上げます。

小さいので溶接よりも仕上げに時間がかかりました。

薄めた耐熱塗料(600℃)を塗って完成。
安堵の瞬間です。